会議報告

第28回制御核融合およびプラズマ物理に関する
ヨーロッパ物理学会会議(EPS)

山田弘司(核融合研),西村博明(阪大レーザー),三間國興(阪大レーザー)

 

 本会議は毎年ヨーロッパ各国の持ち回りで核融合プラズマと,より一般的なプラズマ物理に隔年で重みを交替させながら行われている.今回は核融合プラズマの研究を強調する枠組みで,ポルトガルのマディラ島のフンシャルにおいて6月18日から22日の間,開かれた.会議の登録参加者は620名(日本からは約40名)であった.

 発表は招待講演32件の他,一般講演500件弱がポスターによって発表されたが,プログラム委員会が特に一般講演から選択した35件は口頭発表も合わせて行われた.会議の性格を招待講演の内訳から拾うと,トカマク実験が15件,慣性核融合関連が6件,ヘリカル系実験が4件,トロイダルプラズマの理論が5件でこれらを合わせると30件となり核融合プラズマ研究に重点が置かれていることがわかる.核融合プラズマ以外の2件はMHDダイナモに関する基礎研究およびSOHOによる観測を中心とした太陽学のレビューであった.会議はV.D.シャフラノフ氏へのトロイダルプラズマの平衡・安定性に対する傑出した業績によるハンス・アルフベン賞の授与と,氏による磁気島が存在する場合のMHD平衡についての招待講演で始まった.日本からの招待講演はLHD(山田,核融合研)およびJT-60U(菊池,原研)からの2件があった.LHD実験からは低衝突頻度での磁場構造調整による新古典拡散低減の実証と高いベータ(3%)のプラズマが閉じ込めの劣化を伴わずにメルシエ不安定領域を越えて実現されていることが報告された.JT-60Uからは実験中止が今年予定されていることから過去10年間の核融合炉心プラズマの開発への貢献がレビューされ,会場からはその歴史的意義に対する賞賛が拍手をもってなされた.
 トカマク実験においてはITERの2つのミッション,すなわちQ = 10以上の達成および,Q = 5での定常運転の確度をより上げることを動機とした研究が主となっている.前者においては三角度を上げることによる安定性の向上,希ガス不純物入射と高磁場側からのペレット入射による閉じ込めと密度限界の向上に成果が上がっている.また後者においては新古典テアリングモードの理解と安定化実証が必要であり,ECHによる局所的電流駆動以外にもICRFを用いた種磁気島の縮小の成功例がJETより報告された.電流駆動については原理実証や達成パラメータの競争から,電流分布を閉じ込め・安定性の観点から最適化する方向へと詳細化している.新しい研究の流れ(流行というべきか)として,電子の異常輸送解明がある.ここではECHによる加熱変調やコールドパルス伝播が組み合わされることが多く,過渡的応答や輸送の非局所性などについて新しい物理モデルの枠組みが問われている.ヘリカル系のW7-ASからは磁気島利用ダイバータを用いた排気が有効に働き,密度(3.5×1020m-3)およびベータ値(2.7%)を大きく更新できたことが報告された.

 今後の核融合研究のあり方に関して,主だった各種機関の長,6名(Finzi, Pellat, Varandas, Vandenplas, Schueller, Wagner)の主導によるパネル討論があった.欧州では現在の予算(年間約5億ユーロ)を1.5倍にしてITER建設とITER実験開始までは一つのトカマクと一つのステラレータ(固有名詞は出ないがJET(あるいはAUG)とW7-Xのことであろう)および技術開発を3本柱として進めることを方針としている.核融合開発が分岐点にあり,研究要素が物理から技術へ,お金の流れが研究機関から産業界へとシフトしていくこと,上記2つ以外の主だった実験装置のシャットダウンについても明言があり,日本における議論と問題意識や方向は類似しているが,''solidarity''(団結)をキーワードとして半歩踏み込んでいる印象を受けた.しかしながら現時点では予算の裏付けが不明であり,欧州では2003-2006年の第6期核融合プログラムの中期においてITER計画の開始を位置づけていることからまだ,枠組みの確定にはしばらく時間がかかると思われる.

 欧州ではEUを主体とした欧州共同利用研究によりレーザープラズマ物理研究が活発に実施されているものの,EURATOMで認知された慣性核融合エネルギープログラムが存在しない.このため関連研究の情報交流の場としてレーザーと物質との相互作用欧州会議(ECLIM)が個別開催されてきた.このようなMFEとIFE研究の個別の国際会議をEPSのもとに統一することがMeyerter-Vehnらにより提案されている.その手始めとして,「第5回核融合ターゲットの高速点火ワークショップ」をサテライト会議として開催するとともに,EPSの中でも高速点火のレビュー(Meyerter-Vehn)やロチェスタ−大学のOMEGAレーザー実験およびフランスCEAのLMJ計画等につき総合講演があった.ワークショップでは高速点火に関連した超短パルス高強度レーザーとプラズマとの相互作用,プラズマチャネルの形成と伝搬,エネルギー付与,高速点火ターゲット設計などに関連した理論・シミュレーションならびに実験の報告がなされた.参加者は欧米を中心に約70名(日本から4名)であった.発表内容はいずれも斬新で興味ものであったが,中でも注目されるのは超高強度レーザーにより生成した高エネルギー(〜10 MeV)プロトンの発生物理とその応用である.空間サイズ10μm,時間幅5 psのプロトン源はラジオグラフの線源としても有用で,密度・厚さ積に加え電磁場の分布情報を提供できるので,プラズマ追加熱はもとより高密度プラズマや物質分析などに新しいツールとなろう.また,爆縮プラズマへの相対論的電子によるエネルギ−注入の中心研究課題としてプラズマチャネルの形成の重要性が再認識され,実験および計算機シミュレーション研究で高速点火に要求されるエネルギ−流速密度の実現の可能性が指摘される等新しい成果が紹介された.高速点火のターゲット設計や新概念の探索では,加熱用レーザーの注入路を確保するコーンガイドターゲットの提案と予備実験やレーザー生成イオンビームによる加熱および超高密度プラズマ周辺のコロナ領域での高速点火などが提案された.

 次回の制御核融合およびプラズマ物理に関するEPSは来年2002年6月17日―21日にスイスのモントレーにおいて一般的なプラズマ物理に重点を置いて開催される予定であり,高速点火ワークショップは来年リバモアで開催予定である.なお,2004年には本EPSとECLIMの共同開催(ロンドン)が検討されていることも申し添えておこう.

(2001年7月23日受理)

会議レポート
写 真
資 料
 


Last Update is 2001.7.30(7.25)
(C)Copyright 2001 The Japan Society of Plasma Science and Nuclear Fusion Research.
All rights reserved.