第30回制御核融合および
プラズマ物理に関する
ヨーロッパ物理学会会議(EPS)


標記会議が 2003年7月7日から11日にわたってサンクトペテルスブルグで開催されました.なお学会誌Vol.79-09月号に本報告が掲載されます。次回 は2004年6月28日−7月2日 ロンドンのインペリアルカレッジで開催される予定です。


EPS会議会場の写真はこちらから

森田 繁(核融合科学研究所)

 本会議はヨーロッパ各国の持ち回りで,核融合研究と基礎プラズマや宇宙プラズマを含めたより広範なプラズマ物理研究との間で会議の軸足を毎年交代させながら運営されている.今回は標題にもあるように核融合プラズマ研究に比重がおかれている(Controlled FusionとPlasma Physicsのどちらが会議名の先頭に使用されているかで会議の軸足を判断することができる).今年はバルト海沿岸のサンクトペテルスブルグにて,ロシア国内でも最も大きな研究所の一つに挙げられるヨッフェ研究所とペレット入射で有名なサンクトペテルスブルグ工科大学をおもな主催者として,2003年7月7日(月)から11日(金)の日程で開催された.会議の運営や文化行事等,主催者側の会議開催にかける熱意が強く伝わるものであった.各種の案内にはサンクトペテルスブルグ市内の大学から英語のできる学生を多数集めたようである.市内の中心部を流れるネバ川に面したサンクトペテルスブルグホテル内の大会議室が会場として使用された.招待講演30件(核融合分野のみ;日本からは須藤:LHD計測(核融合研)),口頭発表89件(全分野;竹永:JT-60U輸送,河野:JT-60U制御用計測(原研),黒田:X線レーザー(東大物性研),佐野:H-J_Hモード(京大エネ研),東井:LHD_Hモード(核融合研),小川:重イオン電離(東工大)),ポスター発表752件(全分野:日本から53人)が行われた.これまでと比較して口頭発表件数が大幅に増加し(250%増),小会議室3部屋を含めて4つの会場での並列講演となった(大会議室:核融合分野,小会議室:その他).ポスター発表は別棟の大部屋・小部屋で行われた.今回はポスター面積がA0サイズに限定されていたので比較的密集して発表者が並ぶこととなり,結果としてそれが会場全体を見通すのに都合がよく,より活発な議論を生んでいたように思う.ただ,一部2階に通じる階段の踊り場もポスター展示に共用され,(小部屋も含めて)そこに割り当てされた発表者には少し気の毒な気がした.

 会議の冒頭では恒例となっているハンス・アルフベン賞の授与があり,今回はロシアのFortov氏(高エネルギー密度物理研究所,モスクワ)の衝撃波を利用した高密度プラズマに関する長年の研究業績に対して与えられた.記念講演の後,例年であれば主だった装置の最近の実験結果が招待講演として発表されるのであるが,今年はそのような趣旨の講演は2日目以降となり,初日はあるテーマについて現状説明を行う形式となった.初日の招待講演は,ITERにおけるプラズマ−炭素壁相互作用,太陽フレアーとトカマクにおける磁場構造に基づく不安定性の共通点,STトカマクの基礎と欧州における現状,レーザーパルスのプラズマ中の伝播,レーザープラズマの硬X線を利用した核分裂反応実験についての5件であった.ITERにおける炭素壁の採用は(重水素イオン衝撃)腐食による寿命と三重水素の取り込みの点で不確実な部分が残されており,今後金属壁トカマクによるデータベースの拡充が強く指摘された.

 一般講演の内訳はトカマク218件,ヘリカル71件,その他31件,エッジ85件,加熱44件,計測103件,レーザー相互作用46件,基礎40件,天体プラズマ19件,低温プラズマ41件,ダストプラズマ34件であった.エッジや加熱は大半がトカマク実験からの結果である.JETからの報告が圧倒的に多く,全体の1割強あった.また,磁場閉じ込め以外の分野でのロシア圏からの発表が驚くほど多く,潜在能力の高さを強く感じた.

 トカマクでは普遍的に観測されるELMやITBについて実験と理論(特にMHDと非線形輸送を結合させたコード)の比較検討が着実に進んでいる印象を受けた.MASTでは高NBI(2 MW)入力に加えプラズマ電流を徐々に上昇させる(250 msで1 MA)と逆転磁場配位が形成され,ITBが観測された.磁場が低いため(0.5 T)プラズマ電流に対するNBIの入射方向の違いで電力吸収分布が異なり,その結果形成されるプラズマも違ったものになっている.ヘリカルではLHDでネオングロー放電洗浄とアルゴンパフの組み合わせでイオン温度7 keVが達成された(PNBI=10 MW).また,LHDとH-JでHモードと現象的に似た放電を見出した.RFP装置のMST(ウィスコンシン)では,プラズマ周辺に電流を誘起した結果磁場揺動を軽減することに成功し,トカマク並みの閉じ込め性能を得た.レーザー核融合ではNIF(米)の4ビームラインが,またLMJ(仏)の原型であるLILが今年中に稼動し実験が行えるようになるとのことである.NIFの最終的な192ビームラインの完成は2009年に予定されている.

 ITERについては各候補地が宣伝のためのブースを開いており,特にスペインが熱心な印象を受けた(9月には欧州統一候補(仏との競合)が決まるらしい).研究面についても着実に進展している様子であった.会議全体の雰囲気もITER建設(最終候補地)決定を心待ちにしている様子が感じられた.ただ,個人的にはITER物理の総合講演を非常に楽しみにしていたが,現状装置の実験結果の羅列に終始したのが残念であった.

 次回(31回)はロンドンのインペリアルカレッジで開催予定(2004年6月28日−7月2日:www.fusion.org.uk/eps2004)である(32回はスペイン,33回はイタリア・シチリア島らしい).ただ,次回は会議の名称からControlled Fusionが消え,31th EPS Conf. on Plasma Physicsとなっている.さらに,トピックスとしてダスト・低温プラズマと同様にレーザー−プラズマ相互作用や慣性核融合研究がこれまで以上に重要視されるらしい.

(2003年7月30日原稿受付)



EPS会議会場の写真はこちらから


★会議報告のトップページに戻る★

最終更新日:2003.8.8
(C)Copyright 2003 The Japan Society of Plasma Science and Nuclear Fusion Research.
All rights reserved.