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第18回核融合炉における
プラズマ表面相互作用国際会議(PSI-18)

上田良夫(阪大),朝倉伸幸(JAEA)

標記会議が,2008年5月26日から30日までスペインのトレドでにて開催されました.なお学会誌Vol.84-9月号に本報告が掲載されます。



 第18回の標記会議が平成20年5月26日から30日までスペインのトレドで行われた。この会議は,核融合炉におけるプラズマ表面相互作用をエッジプラズマと壁材料の両方の視点から取り扱う会議で,比較的テーマが絞られているにもかかわらず,毎回多くの参加者を集める。特に近年ITERやそれに続くDEMOの壁材料選択が,核融合炉の実現に対して最も重要な課題の一つと認識されるにあたり,本国際会議の重要性はより高まる傾向にある。ただ,ITERという目的が明確になるにつれ,研究の工学的な価値が重視される傾向があり,その一方で基礎過程の解明を目的とした学術的研究の比重が低下する傾向にある。さらに,ITERで使用予定のベリリウム,炭素材,タングステン材については,多くの研究発表が採択されたが,それ以外の材料(ステンレス鋼など)については採択数が少なかった。ある程度重点を絞って,会議内容を企画することも重要であるが,それと同時に優れた基礎研究や,将来を視野に入れた研究をバランス良く取り込むことも,この分野の発展のためには必要であろう。

 さて,今回のPSI会議の論文数は345であり,従来に比べて採択数も投稿数も多かったということで,この分野の研究活動が高いアクティビティーを維持していることがわかる。論文の約半数(175)はEUからで,その次は米国の73,日本の56と続き,これらの3地域で全論文数の9割弱を占める。論文数の多いカテゴリーは,プラズマ対向材料・コーティング・コンディショニング(65件),損耗と堆積(62件),エッジプラズマ物理(61件),プラズマ燃料注入・リサイクリング・トリチウム蓄積量(47件)である。これらのカテゴリーは,現在ITERで問題となっているトリチウムの吸蔵量の制御やELMによる対向材料への熱負荷とその材料特性への影響などと深く関連しているカテゴリーである。

 会議ではまずRoth博士が行った,ITERのプラズマ壁相互作用現象のレビューに本会議の重要なポイントが集約されている。ここでは,ITERの壁材料決定するにあたり,損耗,トリチウム吸蔵,及びダスト発生量の観点から炭素,タングステン,ベリリウムの評価を行っている。すべての壁を炭素にした場合,あるいはダイバータの一部に炭素材料を使用した場合(現在のITERの設計)は,トリチウム吸蔵によりDTショット数が大幅に制限されることが,従来通り示された。また,炭素堆積層からのトリチウム(水素同位体)の除去に関して,酸素ベーキングの有用性が指摘されたが,ITERのベーキング温度(250℃)では,その効果は限定的である。また,Be-C再堆積層や照射損傷を持つタングステンからのトリチウム除去まで考えると,600℃程度のベーキング温度が必要になることが指摘された。また,新たなトリチウム蓄積緩和策としてScavenger Effect(窒素の導入による堆積しにくい化学物質の形成)が紹介された。

 トリチウム吸蔵や,損耗の問題の少ないタングステンは,ITERの後期,あるいはDEMO炉の壁材料の第一候補である。そのため,第一壁やダイバータなど,炉内壁のすべてタングステン材としたASDEX-Uからは多くの発表が取り上げられていた。例えば,(1)粒子バランスから炭素ダイバータと比較して水素同位体の容器内への蓄積が減少したこと,(2)タングステン不純物の多量の蓄積は観測されていないこと(ICRF中でもCW < 8 x 10-5),(3)タングステン不純物の制御方法(ガスパフ,ECH,2つのICRFアンテナの位相を変えシース電位を軽減など)。さらに,新たな現象として,IC入射時やNB入射のみでも外側バッフルや内側ダイバータ板にアークが発生し,材料表面の局所的損耗や再堆積の増加が進む事が報告された。

  一方,タングステン材料のヘリウム照射効果については,ミクロンサイズのバブルの発生やフィラメント状の微細構造の生成条件に関する詳細な実験結果や,その発生機構の考察が日本や米国から発表された。ただ,実機においてこのような現象が発生するかどうか,あるいはプラズマ制御や,タングステンの損耗促進に影響するかどうかについては,今後さらに研究が待たれる。さらに,ITERでは壁の温度が低いため(200 - 300℃,ダイバータのストライク点近傍を除いて),中性子照射によるタングステン材料の劣化や,トリチウム吸蔵量の増加が懸念される。照射損傷が水素同位体の吸蔵に与える影響については,高エネルギーイオンビーム照射による実験結果がいくつか報告されていた。また,ELM等の間欠的熱負荷の繰り返しによるクラッキングとその影響評価については,今後さらに研究が必要である。

 ITERにおける壁熱負荷に大きく影響する可能性があるELMによる熱輸送現象については,多くの装置で観測が進み,その性質がレビュー的にまとめられた。前回からの継続として,熱負荷の内外非対称へのドリフト効果や,JETでのMJクラスのELM発生後の炭素発生と放射損失の増大など,更に定量的な研究の進展が発表された。しかしながら,現状の磁力線方向の対流輸送モデルとフィラメントモデルではまだ十分に現象を理解できない。一方,DIII-D等でのELM制御コイルによるELM抑制効果と物理解析結果が注目された。比較的少ないコイル電流で緩和できるが,緩和できるモードに制限が有り,周辺部でのプラズマ圧力の減少が伴うためITERあるいは核融合炉への最適化には今後の研究が必要である。

 非拡散輸送(いわゆるblob)についてもELM同様ここ数年間で多くの装置で観測が進みレビューにまとめられたが,ELM測定ほど実験データは多くはなく測定方法も装置間で異なる。BlobのフィラメントはELMのそれよりはスケールは小さく磁力線方向の広がりも小さい,またLモードとHモードで発生する位置や伝搬範囲も異なる。非拡散輸送およびELMによる径方向のエネルギー輸送のレビューがFundamenski博士により行われた。3次元の(インタチェンジモードを主な発生要因とする)周辺乱流輸送モデルで説明できるとされた。

 また,JETでITER用の比較低密度の先進運転や高密度の燃焼プラズマ放電の模擬実験を行いELM緩和や熱負荷低減のため不純物パフ(Ne,N2)の結果,先進運転ではNeを推奨,高密度運転では既に高密度で必要がないことが指摘された。一方,JETの高放射損失Type-III実験では,N2,Neを入射しており,最適な不純物の選択や制御方法などがまだ不明である。さらに,ITERのタングステンダイバータ時での損耗低減のため,Neによる熱負荷低減のシミュレーションが示された。昔は不純物パフにはArが最適と言われていたが,いまだにどの不純物が最適なのか見極められていない。

 Tore Supraからの研究発表の多さも目立った。特に同じ長時間放電を繰り返し壁吸着実験を行ったが飽和には達しないため,粒子吸着は共堆積が主だと考えられている。一方,UFO(ダスト)が多くの放電中に発生し,それがDisruptionの要因となるケースが多い事が指摘された。

 先進的な概念については,Li液体金属壁に関する発表があった。これまでの液体リチウム壁に関する研究のレビューを行い,プラズマ制御等に関して好ましい結果がいろいろ示された。しかしながら,実際にITERやDEMO炉で使用するためには,液体リチウムのハンドリング,安全性の確保,プラズマへの影響評価など様々な問題を克服していく必要性がある。ただ,タングステンダイバータの実現性については,まだ十分な確信を持てない状況を考えるともっとオプションの研究開発がなされて良いと考える。

 最後になったが,いくつか会議にまつわるエピソードを紹介しよう。この会議では当初会議までに建設される予定であった会議場が間に合わず,別の会議場を使用して口頭発表が行われた。この会議室は広さは十分であったが,宴会場を転用したようで,高さが足らず,スクリーンが見えるのは最前列からせいぜい10列席程度に限られた。会議室の両脇にディスプレーもおかれていたが,近くに座らないと画面が見にくかった。また,(多分この影響で)ポスター発表もロビーの一部を利用して行われることになり,展示スペースが狭くお目当てのポスターの前に立つのもやっとという状況であった。会議場の建設が予定通りにいかないのは,スペインのおおらかさであろうか。

 また,トレドに行くためには,マドリッドを経由するのだが,最近マドリッドの治安が悪くなっているようだ。多くの参加者がトラブルにあった。カバンを取られた人や財布をすられた人が多くいた。私の知る限り少なくとも6人の日本人が被害に遭い,日本大使館のお世話になった人もいた。これから,マドリッドへ行く予定のある人は,ぜひ身の回りには気をつけるようアドバイスをしたい。

 


(原稿受付 2008年7月21日)


最終更新日:2008.8.11
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