第13回International Congress on
Plasma Physics会議

official site: http://icpp2006.kiev.ua/index.html


標記会議が,2006年5月22日から29日の5日間の日程でウクライナのキエフで開催されました.なお学会誌Vol.82-8月号に本報告が掲載されます。


核融合科学研究所 渡邊 清政

会場の国立タラスシェブチェンコ大学(National TARAS SHEVCHENKO Unversity of Kiev)の国際関係研究所。主な建物は1棟であるが,その1棟が非常に広く,筆者は初日,参加受付場所がわからず,30分近く建物内をさ迷ってしまった(英語が全く通じなかったのも一因)。




メインホールで開かれた,開会式の様子。メインホールは800人程度の収容力を持つ広い会場。開会式,閉会式,教育に関する討論会,すべてのPlenary講演,いくつかのReview講演,口頭発表はこのメインホールで行われた。




キエフの市街地にあるソフィア寺院。木曜の午後の遠足の時立ち寄った。ユネスコの世界遺産に登録されている17世紀後半に再建された大聖堂には,内部への立ち入りも可能だった。




ドニエプル川のほとりから見たキエフ-ペチェールスカヤ大修道院。キエフ市街地にあるもう一つの世界遺産。観光ガイドによるとキエフ=ロシア正教の最も古い修道院。





 標記会議が,2006年5月22日から29日の5日間の日程でウクライナのキエフで開催された。会議はウクライナ科学アカデミーとバルガルボ理論物理研究所(Bogolyubov Institute for theoretical Physics)の共催で運営され,会場はキエフの中心部からあまり離れていない国立タラスシェブチェンコ大学(National TARAS SHEVCHENKO Unversity of Kiev)の国際関係研究所で行われた。

 ICPPはプラズマ物理全般を議論の対象とし,ほぼ2年ごとに開催されている。開催地は,ヨーロッパ,南北アメリカ,オーストラリア,インド,日本と世界中にまたがり,全世界から研究者が参加する文字通り世界規模の会議である。この会議は日本とも縁が深く,記念すべき第1回は1980年に名古屋で開催されている。その後1996年にも第8回の会議が再び名古屋で開催されている。ちなみに,次の第14回は2008年に福岡で行われることが今回の会議中にアナウンスされていた。また,第1回の会議は,第4回のKiev International Congress on Plasma Theoryと第4回International Congress on Wave and Instabilities in Plasmasの合同会議として開かれた経緯もあり,キエフもICPPにとって縁の深い場所である。

 会議では1日あたり,午前中に1~2件のPlenary講演と4~8件のReview講演が行われ,午後は10~21件の口頭発表,70件程度のポスター発表が行われた。会議のトピックスはA.基礎プラズマ,B.核融合プラズマ,C.宇宙プラズマ,D.プラズマ応用,E.複合プラズマ の5つの分野に分けられ,Plenary講演以外はトピックスごとに,2またはそれ以上の発表が平行して行われた。Plenary講演は9件,招待講演は32件,口頭発表は50件,ポスター発表は200件強あった。発表のトピックス毎の内訳はPlenary講演を除くと分野Aが70件強,Bが40件強,Cが50件程度,Dが70件程度,Eが50件強であった。一方,Plenary講演の内わけは,核融合プラズマに関する講演が4件,核融合+宇宙が2件,大気圧プラズマ,基礎プラズマ(理論),ダストプラズマがそれぞれ1件で,Review講演の内わけは,Aが6件,Bが8件,Cが4件,Dが6件,Eが4件となっていた。全体の発表件数に対して,核融合プラズマに関するPlenary講演とReview講演の比率が格段に高いことが今回の会議では気になった。学術講演以外には最終日の午後の閉会式の前に”Plasma Physics Education”と題した討論会が1時間ほど開かれ,いくつかの国,地域からそれぞれのプラズマ物理教育に関する現況の紹介がなされた。その討論会の中で名大の高村秀一氏から,日本における大学院生,オーバードクターの現況について紹介がなされた。また,EUからは”Erasmus Mundus奨学金”による核融合科学,工学,物理分野の大学レベルでの人物交流(欧州外から欧州の大学への留学支援)に関する紹介がなされた。討論により何か結論を出せたわけではなかったが,このような教育に関する討論会は前回フランスのニースで開かれたICPPでも行われており,ICPPが研究交流の場だけでなく,人材育成にも重点をおいていることを示してるようだ。

 参加者数としては,主催者の発表によると400名近い参加申込みがあったそうであるが,初日のオープニング時の出席者はざっと見積もって200名程度であった。これまでのICPP会議の出席者数の平均が500人から1000人の間だと聞いているので,参加申込み数としても,これまでのICPPの参加人数と比較して少なかった。参加者の顔ぶれを見て感じたことは,開催地であるウクライナからの参加者,特に大学院生等の若い研究者が少ないように感じた。また,ロシアからの参加者もほとんど目立たず,近隣諸国の研究者の参加の少なさが気になった。日本からの出席者に関していえば,参加者は総数で20名程度であり,Plenary講演として,核融合研の山田弘司氏が「LHDプラズマの輸送,安定性研究」,豊橋技術大の水野彰氏が「環境浄化分野における大気圧非熱プラズマの工業への応用」に関して発表し,Review講演として,兵庫県立大学の菊池裕介氏が「TEXTORトカマクにおけるエルゴディックダイバータ実験」,東北大の犬竹正明氏が「MHD研究と宇宙利用における超音速流生成」,九州大学の佐藤浩之助氏が「ショック波加熱プラズマと超音速ノズル流によるレーザー振動」についてそれぞれ発表を行い,日本でのプラズマ物理研究のアクティビティの高さを示されていた。

 ICPPはプラズマ物理全般を議論する会議で,且つ世界中の研究者に対して同等に開かれた唯一の会議であるのに,最近の会議で参加者の減少傾向が続いていることは残念である。今回の会議で言えば,全体の発表件数に比して核融合プラズマ関係の招待講演の比率が非常に高かったことも,それ以外のプラズマ分野の研究者の参加意欲を減衰させたかもしれない。ICPPが今後ともプラズマ物理分野の魅力ある国際会議として継続できるかのキーは,2008年に福岡で開催予定の第14回の会議が持っているかもしれない。

 なお,プログラムとプロシーディングスがそれぞれhttp://icpp2006.kiev.ua/CD/index.html, http://icpp2006.kiev.ua/program.pdfにアップロードされている,会議での発表内容に興味をお持ちの方は,ご参照ください。

(原稿受付:2006年7月6日)



最終更新日:2006.7.10
(C)Copyright 2003 The Japan Society of Plasma Science and Nuclear Fusion Research.

All rights reserved.