IEEE International Conference on
Plasma Science (ICOPS 2004)

沖野 晃俊

(東京工業大学大学院総合理工学研究科))


 2004年6月28日から7月1日の4日間,標記の国際会議が米国メリーランド州ボルチモアのハイアットリージェンシーホテルで開催されました。学会誌Vol.80-08月号に本報告ダイジェスト版が掲載されます。次回は2005年6月20日から23日まで,カリフォルニア州モントレーのPortola Plaza Hotel (旧Double Tree Hotel)で開かれる予定です.





 ボルチモアはアメリカの東海岸,首都ワシントンDCの北東約64 kmに位置する,人口約65万人の港町,観光の町である。ボルチモアと聞いてまず思い出されるのはメジャーリーグのボルチモアオリオールズであるが,2001年にCal Ripken Jr.が引退して以来,日本でも知られるほどの選手は出ていない。会議の前週には松井秀喜の所属するニューヨークヤンキースが来ていたが,国際会議の期間中はオリオールズは残念ながら遠征に出てしまっていた。オリオールズの本拠地,カムデンヤードはハイアットホテルから徒歩約5分のところに位置し,球場の前にはボルチモア出身の野球の神様,ベーブ・ルースの像が立っている。



 ICOPSでは,理論からシミュレーション,スペースプラズマから産業応用まで,プラズマに関する幅広い,というか熱核融合を除くほとんど全ての分野をカバーしており,29のトピックスに分類されている。大きい7つの区分と発表件数は,

(1) Basic Processes in Fully and Partially Ionized Plasmas 103件
(2) Microwave Generation and Microwave-Plasma Interaction 112件
(3) Charged Particle Beams and Sources 45
(4) High Energy Density Plasmas and Their Interactions 123件
(5) Industrial, Commercial, and Medical Applications of Plasmas 139件
(6) Plasma Diagnostics 36件
(7) Pulsed Power and Other Plasma Applications 50件

となっている。4日間の会議は,全員が参加するプレナリーセッションに続いて,4会場で招待講演と一般口頭発表行い,これと同時進行でポスターセッションという形式が午前,午後と繰り返され,合計7件のプレナリートーク,31件の招待講演,192件の一般口頭発表,385件のポスター発表が行われた。ここでは,プレナリートークについて紹介する。


 第一日目の午前はオールドドミニヨン大学のMounir LaroussiがNon-Equilibrium Plasma-Based Sterilization: Overview, State-of-the-Art, and Challengesと題する講演を行った。小型のプラズマジェットや直径1ミリ程度のプラズマニードルなど,熱プラズマの範疇には入らない,高気圧非平衡モcoldモプラズマ源の開発状況と,それらのプロセス,環境,医療等への産業応用について紹介された。午後はローレンスバークレーのWim LeemansがLaser Wakefield Accelerators: Status and Futureという講演を行った。プラズマとレーザの基礎的な関係から,フェムト秒X線源やレーザ冷却まで,非常に幅広いレビュー講演であった。

 第二日目の午前は予定が変更になり,サンディア国立研究所のJohn MaencheがPulsed-power-driven Advanced Radiographic Technologiesと題する講演を行った。パルスパワー技術を用いて高輝度のパルスX線源を製作し,これを用いて現在よりも遙かに高分解能のX線ラジオグラフィ(レントゲン)を開発する研究が行われている。講演では,主にこの要素技術,高電圧パルスの発生からパルス圧縮および電極形状の開発現状と問題点等が紹介された。午後はプリンストン大学のNathaniel FischがMechanism of Electric Propulsionと題する講演を行った。ロケットや人工衛星の推進技術についての基礎の説明のあと,最新のイオンスラスター,ホールスラスターなどの開発現状と技術的限界などが紹介された。ここのところ,大規模な宇宙探査計画は縮小されていたが,近年開始されたPrometheus計画では,木星のガリレオ衛星を詳しく調べるため,木星氷衛星周回機計画JIMO (Jupiter Icy Moon Orbiter) mission, http://www.jpl.nasa.gov/jimo/が設定されている。このようなミッションを可能にする技術としてプラズマ宇宙推進が注目を集め,研究開発が再び活発になろうとしているとのことであった。

 第三日目午後は2004年Plasma Science and Application Awardの受賞講演で,コーネル大学のDavid HammerがThe X Pinch, a Reamrkable X-ray Source and High-Energy-Density Plasmaと題する講演を行った。XピンチではX型にセットされた細線に高圧パルスを印可して超高温・高密度のプラズマを生成する。講演ではXピンチの基礎から,X線撮影用の光源応用までが紹介された。Xピンチを使うと10〜100 psの時間分解で1〜10 mmの空間分解能のX線撮影が可能になるとの事で,昆虫の撮影など,いくつかのデモンストレーション結果が紹介された。

 最終日はMKS Power and Reactive Gas ProductsのW. Holberによる,Plasma Physcis on the Factory Floorと題した新しいプラズマ源の講演があった。産業界で使用されているプラズマの紹介があった後,これからはHigh Frequency Capacitive Plasmaの時代だという話になった。13.56 MHzで従来のように誘導結合プラズマを生成し,これとは別に基板により高い周波数の高周波を印加して,所望の高温・高密度プラズマを得ようというものである。また,ASTRONと呼ぶトロイダルプラズマ源の紹介があった。ドーナツ状の金属放電管に外部からフェライトを介して高周波を印加してトロイダルプラズマを生成するもので,NF3の分解やSi3N4,SiO2のエッチングなどに有効ということであった。本当かな?と思われる部分もあったが,新しいプラズマ源に興味のある筆者にとっては大変興味深い講演であった。


 これらのメインセッションの他に,6つのサテライトミーティングが開かれた。筆者は3日目の午後7時半から開かれた,ミネソタ大学J. Heberleinのコーディネイトによる熱プラズマプロセスのシンポジウムに参加した。ここでは,プラズマによるカッティング,コーティング,スプレーなど,最先端というよりはすでに産業界で実際に利用されている技術が主な話題になり,講演者と約30名の参加者の間で非常に活発な議論が行われた。


 今回の参加者は20か国強から505名という事であった。昨年のICOPSは30回記念という事で初めて北米を離れ,韓国の済州島で行われた。そのせいもあってか,今回の会議では多数の韓国人研究者の参加が目立った。次回は2005年6月20日から23日まで,カリフォルニア州モントレーのPortola Plaza Hotel (旧Double Tree Hotel)で開催される。なお,この会議に先立って6月13日から17日まで,同じ会場でIEEE Pulsed Power Conference (PPC 2005)が開かれる。さらに,これらの会議の間にはZ-Pinch Physicsのミニコースが予定されている。


 会議の詳細はhttp://ewh.ieee.org/cmte/icops/もしくはアブストラクト集(04CH37537)などを参照して頂きたい。また,本会議についてIEEE Trans. on Plasma Scienceでは,(1)プレナリーおよび招待講演,(2)選ばれた口頭発表の2冊のSpecial Issueを発刊する予定である。



 最後に,会議とは別に少々期待外れだった事を2つ。ワシントンDCの空港を利用したので,さぞや警戒が厳重なのかと思いきや,今回のアメリカの出入国は9.11以前と同じほどいい加減であった。また,この夏,東海岸で大発生したという17年ゼミは1匹も見る事ができなかった。10日ほど前まではものすごい数がいたということなので,アメリカのセミの発生は日本よりもかなり早いらしい。

(2004.7.21原稿受付)


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最終更新日:2004.7.22


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