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第35回プラズマ物理に関する
欧州物理学会年会(EPS)報告


榊原 悟(核融合研),坂上仁志(核融合研),齋藤和史(宇都宮大)


標記会議が,2008年6月9-13日まで,ギリシャ・クレタ島クレタマリス・カンファレンスセンターにて開催されました.学会誌Vol.84-9月号に本報告が掲載されます。なお,次回開催は2009年は6月29日―7月3日にソフィア(ブルガリア)での予定です。







 2008年6月9-13日の4日間,ギリシャ・クレタ島クレタマリス・カンファレンスセンターにて標記会議が開催された.クレタ島はエーゲ海最南端の島で,ヨーロッパにおける最初の文明であるミノア文明が栄えた地として知られるヨーロッパ有数の観光地である.

 今回の会議参加者は752名と,前年度の649名と比較して100名程度多い.プログラムは,例年通り,磁場閉じ込め核融合,ビームプラズマ・慣性核融合,基礎・天体プラズマ,ダスト・低温プラズマの4つの分野に分かれ発表,議論が行われる構成となっている.会議の午前中は参加者全体を対象とした基調講演が行われた.上記4つの分野における最新の話題を,多分野の研究者にも理解されるよう基礎的な内容からわかりやすく丁寧に発表がなされていたことが印象的である.

 会議初日は,物理学の分野において著しい功績を残した研究者の栄誉を称えるハンス・アルフヴェン賞がカリフォルニア大学のLiu Chen氏に贈られた.永年にわたる教育活動に加えて,アルフヴェン理論の構築および実験検証の点で高く評価された結果であり,「アルフヴェン波:宇宙と核融合プラズマの旅」と題した講演が行われた.また,学生に対する奨励として,PhD研究賞(3名),会議での発表によって審査されるPPCFポスター賞,プラズマ乱流研究を対象とした伊藤プロジェクト賞の発表が行われた.他にITER Session,Education in Plasmas,Women in Physicsなどのセッションが開催された. ITER Sessionでは, ITERの設計活動及びその課題に関する話題提供がなされ,活発な議論が行われた.

 本報告では,出席者の関係上,磁場閉じ込め核融合,ビームプラズマ・慣性核融合,基礎・天体プラズマおよびダスト・低温プラズマの各分野における興味深い話題について紹介する.なお,ビームプラズマ・慣性核融合については,EPSのサテライトミーティングである第10回高速点火国際ワークショップと合わせて報告する.

 来年は6月29日―7月3日にソフィア(ブルガリア)で開催予定である (榊原)

 




1.磁場閉じ込め核融合

 磁場閉じ込め核融合分野では,「軸対称配位における非軸対称構造」が一つのキーワードであったように感じた.トカマクを始めとする軸対称磁場配位を有する装置において,近年,抵抗性壁モードの安定化,ELM制御に関する配位制御など,軸対称配位に非軸対称となる磁場摂動を加える手法が適用されている.これを受けて,軸対称配位に磁場摂動や真空容器を三次元的に取り込んだ平衡,安定性計算に対する結果がいくつか報告された. 結果として真空容器構造を詳細に取り込んだ場合には,他の不安定モードが励起される可能性があること等が示された(S. Gunter).ELM発生を抑制する圧力勾配制御の手段として共鳴磁場摂動(Resonant Magnetic Perturbation, RMP)を与える実験がなされ,その平衡・安定性解析用のツールとしてIPEC(Ideal Perturbed Equilibrium Code)の開発が進められており,実験結果と矛盾ない結果が得られている旨報告があった(J.E. Menard).A. Boozer氏は,このような観点から,もともと三次元構造を有するステラレータ/ヘリオトロン配位の実験結果とトカマク実験を対比しながら,DEMOでのリスクを最小化するべく非軸対称構造を取り入れた磁場配位の提案がなされた.

 ITERを想定した運転領域の拡大として,JETから高βN,ベータ限界に関する実験検証,ASDEXにおける電流ランプアップ時の内部インダクタンス制御運転,アルカトールC-mod装置におけるトロイダル回転のLH遷移時の評価などが報告された.JT-60Uからは最近の高性能定常プラズマ実験の結果およびJT-60SAに関する計画が紹介された.ステラレータ/ヘリオトロンのプラズマ性能に関する話題として,LHDに関する高ベータプラズマ実験に関する報告がなされた.

 ELMに関する話題としては,DIII-DにおけるRMP実験におけるダイバータへの影響,MAST装置では,カメラ計測によるfilament観測により,モード数,速度などについてL, Hモード時の観測と理論コードによる結果との比較について報告があり,定性的に一致しているとの報告があった.

 材料については,TJ-IIにおけるリチウムコーティング実験の結果,密度制御が容易となったこと,また閉じ込め改善が見られたこと等が報告された.ASDEXにおけるタングステン壁に関する実験では,特にECRH中心加熱時にはタングステンの系方向内側輸送が低減されることなどが示されている.

(榊原)

 

2.ビームプラズマ・慣性核融合

 EPSに併設してクレタ島(ギリシャ)において,6/12-18まで開催された第10回高速点火国際ワークショップに関して報告する.

 6/12~13の前半二日間は,EPSのビームプラズマ・慣性核融合セッションとして開催され,オーラル15件,ポスター約70件の発表があった.高速点火関連では,特に,米国ロチェスター大学の発表が耳目を集めた.同大学では,2本の高エネルギーレーザー装置のうちの1本が4月に完成し,現在,2.6 kJ/10psを目指して最終調整中である.そして,8月には室温におけるクライオターゲットを使った高速点火統合実験を世界に先駆けて開始するとのことであった.日本で足踏みしている間に,米国ではNIFだけでなく,高速点火実験も着々と計画を進めており,レーザー核融合に掛ける意気込みが感じられる. 

 また,多次元ハイドロコードとハイブリッドPICを使った統合シミュレーションでは,磁場による高速電子のコリメーションにより,点火に必要なエネルギーが大幅に緩和される見込みであるとのことであった.また,米国NIFでも一部のレーザーを短パルス超高強度レーザーに改修して高速点火実験を行う計画が立案されている.欧州HiPERについても,爆縮および点火・燃焼のシミュレーション解析が進んでおり,本格的な装置設計が始まっている.一方,我が国では,大阪大学のFIREX-I高速点火実験について,来年1月からCDシェルを用いた加熱実験を開始する旨が報告された.

 高速点火以外では,産業応用を睨んだイオン加速について,依然盛況であった.プリパルスの影響,微小ターゲットを用いた実験,円偏向レーザーと直線偏向レーザーとの比較等の興味深い報告があった.

 6/16~18の後半三日間は,七つのテーマ(HiPER,チャネリング,爆縮と燃焼,レーザー吸収&コーン付ターゲット,高速電子輸送,代替点火方式,統合実験&ポイントデザイン)について,現状,次期実験,理論シミュレーション,将来の見通しという四つの観点から十分に時間をかけて発表/議論が行われた.

 HiPERについては,準備段階として3年間約20億円の予算が認められ,研究者がそれに群がっている感がある.HiPERを推進するための組織も立ち上がり,10/6にローンチパーティをロンドンにて開催する予定とのことである.欧州は,ロチェスター大学と大阪大学の高速点火実験について,原理が実証されるかどうか虎視眈々と様子を窺っているようであり,実証されるや否や装置建設に向けて走り出しそうである.このため,我が国でも,FIREX-IIの検討は,FIREX-Iの実験と同時進行で行う必要性を実感した.

 チャネリングについては,10年前に詳細に検討し,制御不能の現象に高速点火の未来を託せないという観点から,いわゆるコーン付ターゲットを提案し,実際に加熱実験をしたのに同じことを繰り返しているという批判もあったが,今後の展開が興味深い.

 レーザー吸収&コーン付ターゲットについては,シミュレーションと実験結果の比較やプリプラズマの影響について議論があり,非常に有意義であった.

(坂上)

 

3. 基礎・天体プラズマおよびダスト・低温プラズマ

 基礎プラズマの講演すべてを網羅的に聴いて報告することは不可能であるから,ダスト・プラズマに関して印象に残ったものから抜粋して報告する。ただし,昨年度の報告にもあるように,EPS会議ではダストは基礎分野とは異なる分野を形成しているが,ここではその分類に拘っていない。

 M. Schwabe氏他 (Max-Plank Institute,ドイツ): 国際宇宙ステーション(ISS)の微小重力下におけるPK-3 Plus 装置を用いて行れた,コンプレックス・プラズマ中で励起されるdust density waveに関する発表であった。微小重力下におけるダスト・プラズマでは中心部にダストの密度が希薄なボイドが生じ,そのボイドの境界から,プラズマ生成用のRF電極面の法線ベクトルに垂直方向にdust density wave (周波数 fOS)が伝播することが知られている。RFを50 Hz未満の低周波fmodで変調すると,法線ベクトルと平行に伝播する波が現れ,fmod _ fOSの場合には,斜め方向に伝播する波が励起されることなどの実験結果が報告された。工夫次第でISSを利用しないでも地上で同様の実験を行うことも可能であると考えるとのコメントがあった。同氏はこの講演でPPCF Poster Prize (EPS会議の4分野それぞれから各1名) 1) を受賞している。

 A. Piel氏 (Christian-Albrecht University,ドイツ): RF放電プラズマのシース中における2次元的・3次元的ダストの結晶化についてのレビューと,ダスト中に形成されるボイドについて,微粒子に対する ion wind forceに着目した形成メカニズムの講演があった。同氏のグループはEPS会議の直前にポルトガル開催されたICPDP (International Conference on the Physics of Dusty Plasma)においてダスト・プラズマの3次元構造をホログラフィ(DIH; digital in-line holography)によって解析する手法を発表するなど2),この分野で最も活発なグループの一つであろうと感じた。DIHについては,ICPDPとの重複を避けるために敢えて講演には含めなかったとのことで,口頭での簡単な説明以上には詳細が聴けずに残念であった。

 B. Bacharis氏他 (Imperial College, イギリス): ダスト・プラズマにはRF放電が用いられることも多いが,電子の分布関数に対するRF電場の影響を通じて,ダストの帯電量にどのような影響を与えるかということを,空間的に一様なRF電場と,電子電流が定常的な流れに微小なドリフトMaxwellianが重畳されたものとして表わされる場合についてシミュレーションを行った結果の発表であった。いずれの場合についても,帯電量を直接的に求めておらず,ダストのポテンシャルを求めていた。電子の影響のみを考えているので帯電量の決定までは至らなかったようである。プラズマを生成するためのRF電場がダストの帯電量に与える影響については,さらなる研究が必要だと感じた。

 ダスト・プラズマの研究ではドイツのグループの活発さが目立ったように感じられる。

(齋藤)

                     

   

                 

1) http://www.iop.org/EJ/news/-topic=1329/journal/PPCF

2) M. Kroll et al.,Phys Plasmas 15, 063703 (2008)


(原稿受付 2008年7月29日)


最終更新日:2008.8.11
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