第27回レーザーと物質との相互作用に関する欧州会議
XXVII European Conference
on Laser Interaction with Matter (ECLIM)

標記会議が2002年10月7日〜11日までモスクワにあるロシア科学アカデミーで開催されました。以下に会議報告および写真・資料等を記します。なお学会誌Vol.78-12月号に本報告が掲載されています。次回 (2004 年) はイスラエルで開催される予定です。


 

村上匡且(阪大レーザー研)

 標記会議が,2002年10月7~11日,モスクワにあるロシア科学アカデミーで開催された。本会議は,超高強度レーザーと物質との相互作用などを含むレーザー核融合に関連する様々な研究成果の発表の場として1960年代に始まり,今回で27回目を迎える。「欧州会議」と冠されてはいるが,世界中の第一線研究者が一堂に集う当分野では最大規模の会議である。昨年7月,ロシアを代表する科学者バゾフ(Nikolai G. Basov) が亡くなり,今回の会議はその追悼集会でもある。そのためか,ロシア科学アカデミー,レベデフ研究所などをはじめとする14もの研究機関の共催のもとで本会議は運営された。会議参加者は露,米,英,独,仏,日など国内外から総勢200名程であった(外国人は約半数)。

 発表内訳は招待講演40件,一般講演42件,ポスター120件であった。トピックとしては,A. 高出力レーザーと慣性核融合炉設計,B. レーザーによる高密度圧縮と流体不安定性,C. レーザー核融合ターゲット設計,D. 高密度プラズマ物理,E. レーザープラズマ中の非線形過程,F. 超短パルスレーザーと物質との相互作用および核物理,G. 高密度プラズマ中のコヒーレント光の生成,H. プラズマ診断技術,I. レーザーを用いた天体物理モデリング,J. 慣性核融合ターゲット製作技術など多岐に渡った。特に実質的な主催者であるレベデフ研究所ではクライオ技術を中心とした慣性核融合ターゲット製作の分野に力を注いでおり,今回の会議でも同分野を対象としたワークショップを併催したり国際支援機構を利用した大規模予算枠の阪大との本格的な共同研究を提案するなどして積極的に独自の研究を展開している。しかし何と言っても会議の主役となり多くの参加者の興味を引いたのは超高強度レーザーを使った理論・実験に関するものであろう。同分野における研究が目覚ましい勢いで開拓されていることが肌で感じられた。

 本会議のメインテーマでもある慣性核融合研究の趨勢としては,良く知られているように米仏の2国がMJ級のレーザー装置を備えた国立点火施設を建設中であり2010年に前後して各々が点火燃焼の達成を目指している。ただしこれらは中心点火と呼ばれる爆縮に伴う自己圧縮による従来通りの点火シナリオに立脚しており,両国におけるターゲット設計はここ10年実質的に変わっていない。これに対して近年阪大レーザー研で推し進めている高速点火と呼ばれる方式では超高強度のペタワットレーザーを使った追加熱を利用しており,つい最近になって点火の目処がつけられるレベルの実験成果が得られている。さらに,超高強度レーザーは単に核融合エネルギー応用と言うだけでなく全く新しい学問分野を次々と創成している。こうして本会議の様相は以前のものと比べると急速にシフトしつつあり,扱うテーマ自体が発散しつあるようにも思える。これも時代の潮流であろうか。

2年後の次回開催地はイスラエルである。これは30有余年の歴史を持つ本会議始まって以来のことでもあり,また国際会議の場で北朝鮮からの研究者(3名)と会い言葉を交えたのも筆者にとっては初めての経験であった。さらに2週間ずれていたら我が身にも降り掛かっていたやもしれぬ劇場でのテロなど,現在の混沌とした世界情勢と相俟って個人的には長く記憶に留まる会議であった。




写真1:レーザーのパイオニア:ニコライ・バゾフ




写真2:会場となったロシア科学アカデミー。荘厳でユニークな建築が目立つ。




 



写真3:ポスター会場風景



最終更新日:2002.12.9
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