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第49回アメリカ物理学会
プラズマ物理分科会(APS-DPP)年会

森田 繁(核融合科学研究所)
横山雅之(核融合科学研究所)
砂原 淳(レーザー技術総合研究所)
吉村信次(核融合科学研究所)
金子俊郎(東北大学)

標記会議が,2007年11月12日から16日の日程でフロリダ州オーランドにて開催されました.なお学会誌Vol.84-1月号に本報告が掲載されます。次回はダラス(2008年11月17-21日)での開催が予定されている.


 2007年のアメリカ物理学会(APS)プラズマ物理分科会(DPP)年会は11月12日から16日の日程でフロリダ州オーランドにて開催された.オーランドはディズニーランドで有名な場所であるが,それら大型娯楽施設を除けばホテルとレストランが点在するだだっ広いところである.昼間は夏のように暑く感じられるが,朝晩はコートが必要なくらいかなり寒くあまり日本では体験しない気候であった.

 会議は核融合,基礎,宇宙プラズマおよび流体等,広範囲の分野から構成されており,全発表件数は1700件程度である.このため朝8時から始まるレビュー講演(1時間)以外はすべてパラレルセッションとなっており,常時5−7件の口頭講演(12分)と1件のポスター発表が同時進行している.また,口頭発表には100件程度の招待講演(30分)が組み込まれている.バンケットでは恒例の授賞式があり,慣性核融合の分野で長年リーダーシップを発揮してきたJohn Lindl博士(LLNL:ローレンスリバモア国立研究所)が学会賞(James Clerk Maxwell Prize)を受賞した.また,岡林典男博士(PPPL),Andrea M. Garofalo博士(コロンビア大学),Edward J. Strait博士(GA),Gerald A. Navratil博士(コロンビア大学)がJohn Dawson Awardを受賞した.また,1時間程度の宇宙物理に関する講演がバンケットの最中に開催された.

 本会議の特長の一つとして夕食後には数多くのビジネスおよびタウンミーティングが持たれていた.その中の一つに「Concerns for Junior Scientists」という会合があり,若い研究者を育てるための方策が話し合われていた.米国では今後10年以内に相当数の研究者が退官する予定であり,ITER等への人材確保を考えても早急な改善が必要ということである.一方で中国人研究者(本土および米国在住)による招待講演発表が相当増えており,印象的であった.

 日本からも多くの講演が活発に行われていた.中でも横山雅之博士(核融合研:LHDにおける高イオン温度放電),長照二博士(筑波大:ガンマ10における閉じ込め改善),藤澤彰英博士(核融合研:帯状流),西原功修博士(阪大レーザー研:EUV光源)および鎌田裕博士(原子力機構:JT-60Uにおけるトロイダル回転)が招待講演を行った.会議のアブストラクトはwebサイト(http://meetings.aps.org/Meeting/DPP07/Content/901)より閲覧することができるので参照していただきたい.講演内容は掲載されていない.著者のメールアドレスが記載されていないので,発表者と連絡を取ることは簡単ではない.なお,来年以降のAPS-DPPはダラス(2008年11月17-21日),アトランタ(2009年11月2-6日),シカゴ(2010年11月8-12日),ソルトレークシティー(2011年11月14-18日)が予定されている.

(核融合研 森田 繁)

 













磁場閉じ込め核融合

 G.W. Hammett博士による「Gyrokinetic Theory and Simulation of Experiments」と題するレビュー講演で会議は開始された.この題目に象徴されるように,最近の高温プラズマにおける乱流計測とジャイロ運動論的(GK)シミュレーションコードの進展に伴って,実験および理論シミュレーションの両面から輸送特性の物理解明を推進していこうという研究の大きな流れが感じられた.博士は過去の論文を引用し,当時の実験で得られた熱輸送係数に対して「著名な」理論家らが予測した熱輸送係数が桁違いに違っている,という図を示し(理論研究者の名前が削除してあり会場からの笑いを誘っていた),両者の差が最近のシミュレーション科学の進展によって相当小さくなってきているという現状を報告した.さらに,HモードやELM現象等のより深い理解に向け,周辺部での乱流シミュレーションを輸送統合コードへ組み込む方法の模索を今後のGKシミュレーション研究の方向性の一つとして指摘した.DIII-Dトカマクでは,ECEやBESを用いて同一半径位置で計測された温度・密度揺動とGKコード「GYRO」によるシミュレーション結果から予測される微視的不安定性に起因する揺動成分とを比較することによって,GKシミュレーションの妥当性検証を行っていこうとする意欲的な研究が報告された.

 ゾーナル(帯状)流や自発的トロイダル回転の観測とその理論解析も大きなトピックスとして数多く発表されていた.また,トカマクでは抵抗性壁モードの安定化との関連で重要であるトロイダル回転の各種プラズマパラメータに与える影響等も詳細に報告されていた.JT-60Uでの運動量輸送の拡散・非拡散項の同定,NBIによる外部運動量評価を基礎として解析された圧力勾配に起因する自発回転の同定が注目を集めていた(鎌田,原子力機構).抵抗性壁モードの安定化にはトロイダル回転「速度」ではなく「速さ」が重要であるとの知見が示された.自発回転についてはDIII-DではCo方向であるが,JT-60UではCounter方向に回転している様子である.DIII-DでのL-H遷移パワー閾値がNBIのバランス入射の場合に比べてCo入射の場合の方が2倍ほど大きくなる,という結果もBES計測を用いて報告された.ポロイダルフローの反転によるフローシア形成との関連で理解が進んでいる.

これら多くの発表から示唆されるように核融合プラズマの物理研究は「ITB」や「Hモード」といった核融合のキーワードからより普遍的な物理量の解明へと大きくその流れをシフトしてきているように思われる.相対的に研究の遅れている粒子輸送研究についてもただ拡散係数を議論するだけではなく,圧力勾配や温度・密度勾配の観測と共に議論を深めていく必要性が指摘されていた(例えばGA・A.W.Leonard博士講演).会議では米国・日本・欧州だけではなく,中国(EAST)や韓国(Kstar)からの実験および現状紹介が口頭およびポスター発表で行われた.

 一方,核燃焼プラズマを見据えたそこでの科学的挑戦(Scientific Challenge)について,J.W.Van Dam博士によるチュートリアル講演が行われ多くの聴衆を集めていた.現状のトカマクとITERとで何が異なるかを焦点にし,6つの分野(閉じ込め,MHD,高エネルギー粒子,長時間放電,計測,プラズマ制御)にわたって合計26項目のまとめがあった.非常に丹念なわかりやすい内容であった.特に,(1)アルファ粒子のような高エネルギー粒子によって駆動される不安定性の抑制,(2)イオン温度と電子温度が等しくなるようなITERの状況下でこれまでのように閉じ込め改善を期待できるか,(3)外部からの運動量注入が小さい状況下で抵抗性壁モードの安定化に必要なプラズマ回転を自発回転だけで期待できるか,(4)不純物蓄積の回避,(5)ELM制御による高熱負荷の回避等の課題が挙げられていた.

 ヘリカル系についてはLHDにおける高イオン温度領域の拡大に関する講演があった(横山,核融合研).径電場のイオン輸送低減への役割や更なる高イオン温度放電に向けた方策等が議論された.また,CHSにおける帯状流・帯状磁場の実験研究結果が発表された(藤澤,核融合研).2台のHIBPを活用した帯状流に関する先駆的研究に続いて,地磁気生成機構にも関連すると考えられる「帯状磁場生成」の発見が注目を集めた.ポスターセッションでは,1T運転を開始したHSX装置(準ヘリカル対称磁場:ウィスコンシン大)におけるECHプラズマの電子閉じ込め,異常輸送モデリングや平衡電流(Pfirsch-Schluter電流)計測等,準対称配位の特性解明に向けた研究進展が報告された.2009年頃の稼動をめざdしているNCSX(PPPL)の建設現状についても紹介があった.

 ミラーについてはガンマ10におけるkV級ポテンシャルを活用した閉じ込め実験に関する講演があった(長,筑波大).トロイダルプラズマにおけるITBと同様の閉じ込め改善現象の発見,E×Bシアー流の促進やkeV温度プラズマの生成等多くの成果が発表された.

(核融合研 横山雅之,森田 繁)


慣性核融合

 APS-DPPでは磁場閉じ込め核融合分野と慣性核融合分野の発表数がほぼ拮抗している.さらに国立点火実証施設(National Ignition Facility:NIF)が2009年に点火実験を開始し2010-2011年に点火実証を予定していることもあり,大変活気に満ちた発表が多数行われた.間接照射爆縮方式ではNIFが最初に核融合点火をめざしているが,ロングスケールのプラズマ・レーザー相互作用により入射レーザーが散乱されてしまうことが問題であった.リバモア研・P.Neumayer博士はホーラムに封入するヘリウムガスに水素を加えることによりランダウダンピングを積極的に利用し,Stimulated Brillouin Scatter (SBS)の発生を抑制することに成功した.誘導ラマン散乱とブリルアン散乱から構成される全散乱光を入射光の30%程度から10%以下に抑制することが可能となり,輻射温度が4−5eV程度上昇することを報告した.この結果NIFにおける点火の可能性がよりいっそう高まった.

 直接照射方式では米国ロチェスター大学を中心としてコアアブレーション領域から周辺コロナプラズマ領域に至る物理モデリングを構築しており,最近の進展が発表された.ロチェスター大・V.Goncharov博士による非局所熱輸送モデルが統合爆縮シミュレーションコードに組み込まれ,様々な実験で検証がなされた.爆縮ターゲットの挙動や核融合反応の時間履歴等の点で,従来の熱束制限付きSpitzer-H_rmモデルを用いた計算結果に比べ明らかに実験を良く再現している.これまで大阪大学の研究成果は非局所電子熱輸送の解明について多くの貢献をなしてきたが,今回のロチェスター大学の理論グループを中心とした努力の結果,さらに物理的理解が進展した.X線計測や散乱光計測において未だ定量的に一致しない部分もあるが,一次元的な電子熱流についてはモデリングの相当部分が明らかに伸展した.

 流体不安定性の研究では,爆縮シェルにSiやGeを添加することによりTwo plasmon decayに起因する高速電子発生を抑制し,積極的に2次元的熱流を増加させることによって流体不安定性を抑制しようとするアイデアが発表された.大阪大学もBrを添加したシェルを用いて流体不安定性の成長を抑制しながら高速度にシェルを加速する実験を行った.プラズマ応用分野ではレーザー生成プラズマを利用した極端紫外線(EUV)光源開発についての研究成果が多数発表された. 特に実験と理 論シミュレーションの両面からの詳細なアブレーションプラズマに関する研究結果が報告され大きな注目を集めた(西原,阪大レーザー研).

 高速点火実験や超高強度レーザーと物質との相互作用について阪大レーザー研が発表を行った.ネバダ大学やロチェスター大学など多くの研究機関から高速電子の発生や輸送について発表があった.また,会議中には「第8回日米高速点火に関するワークショップ」も開催され,レーザー相互作用領域のプラズマスケール長に依存して発生する高速電子のエネルギースペクトル変化やその高密度プラズマ中での伝搬機構等について多くの活発な議論がなされた.

(レーザー総研 砂原 淳)


基礎プラズマ

 APS-DPPの基礎プラズマ分野の特徴として,その裾野の広さが挙げられる.今回も「波動」「乱流」「衝撃波」「不安定性」「流れ」をキーワードとするプラズマの基礎過程から,「磁気リコネクション」「ダイナモ」といった宇宙・星間プラズマ,「非中性プラズマ」「ダストプラズマ」「ビーム物理」「粒子加速」「プラズマ推進」「大気圧プラズマ」といったプラズマ応用まで非常に数多くの発表が行われた.APS-DPPのもう一つの特徴として小会議(mini-conference)の存在を挙げることができる.この小会議はその年に話題となっている課題についての選択的に討論を行う特別セッションを意味する.通常APS-DPPに参加しないような研究者の参加も奨励されており,研究のスペクトルを広げる役割も期待されている.今回行われた3つの小会議の内,2つが基礎プラズマ分野であった.ここでその詳細を紹介する.

「実験室および自然界における角運動量輸送」と題した小会議(PPPL・Hantao Ji博士主催)が2日目の午前中から3日目の午後まで,4回連続のシリーズセッションとして開催された.現在星やブラックホールの形成における降着円盤中の角運動量輸送の役割が注目されていることから,その物理機構として提唱されている磁気回転不安定性についてのシミュレーションやその基礎実験に関する報告が多かった.しかし,それ以外にもマイアミ大学・David Nolan博士による熱帯性低気圧(サイクロン)と関連した角運動量輸送の講演(これは正に通常APS-DPPに参加しない研究者からの貢献)や,磁場閉じ込めプラズマ(Alcator C-Mod,DIII-D,NSTX等)における自発的回転形成の話題等が提供され,角運動量輸送という横糸による分野間連携として活発な議論を生んでいた.この小会議では日本からの発表がなく,少々残念であった.

 「ヘリコンプラズマ」に関する小会議(ウェストバージニア大学・Earl Scime博士主催)は2日目の午前中から3日目の午前中にわたって,3回連続のセッションとして開催された.最初のセッションではヘリコンプラズマの最適化と称して,ヘリコン波の吸収やプラズマ加熱の物理機構を再検討することによりさらに高性能のヘリコンプラズマを生成することを目的としていた.低質量イオンを利用した低域混成波によるヘリコンプラズマ生成,径方向に局在する密度勾配の分散関係への効果等が話題となっていた.その後のセッションでは,ヘリコンプラズマによる高エネルギーイオン・電子の生成やヘリコン波プラズマの将来について議論がなされた.ダブルレイヤー形成による粒子加速や二重プラズマ源による大容量且つ高密度プラズマの生成,さらにはトロイダルプラズマへのヘリコン電流駆動等も提案され,今後に向けた新たな取り組みが紹介された.

 一方,小会議以外では,波動・乱流等の分野において帯状流の話題が注目を集めていた.ポスター発表でも多くの実験および理論的研究が紹介されていた.これまでプラズマ中の粒子輸送を引き起こす原因としてイオン温度勾配モードが中心課題であったが,電子の輸送が重要な役割を果していることが認識され,最近は電子温度勾配モードに注目が集まっている.これに関連した実験的研究が増えつつあることも今回の会議の特徴といえる.

(核融合研 吉村信次,東北大 金子俊郎)

 










(原稿受付 2007年12月10日)


最終更新日:2007.12.18
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